基礎外断熱熱損失計算~3次元非定常解析 vs. 簡易計算式~

【はじめに】
基礎断熱の熱損失計算の簡易計算式には、2次元定常計算により求めた単位周長当たりの式、2次元非定常計算により求めた冬季間の断熱性能を表す式、3次元有限要素法定常解析により求めた定常計算式などがある。これらの研究がなされた時代はPCの性能が低かったが、PCの性能・コスパの向上で3次元有限要素法の非定常解析による基礎断熱のシミュレーションが、粗いメッシュなら個人でも出来る時代になった。
有限要素法の数学的な理解とプログラム作成は難しいが、3次元熱伝導解析プログラムTherm3Dの解析部分を自身のプログラムに取り込むことは比較的容易である。
そこで、『2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)』の地域区分で1地域に該当している北海道北見の外気温データを使って下の基礎断熱モデルで3次元の非定常計算を行い、2次元の伝熱過程から導き出された簡易計算式の値と比べてみようと思う。

【非定常計算時間】
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上のモデルの要素数は1024で、節点数は5101ある。私が所有するコンピューター(CPU:Intel Core i7-10700(8コア/16スレッド)、RAM:16GB)の性能の制約と私の入力ミスの確率を下げるため分割数はこの程度にした。私が組んだプログラムの演算時間を考えると計算打ち切り時間が1秒毎の非定常解析では1年のシミュレーションに9年以上の時間がかかる。1時間毎の1年のシミュレーションには1日弱、1日毎の1年のシミュレーションには1時間弱の時間がかかる。1秒毎の1年のシミュレーションは時間的に不可能なので、1時間毎と1日毎のシミュレーションの値を比べてみた。1年目の冬季(11月~3月)の床からの熱損失(熱伝達率×床面積×温度差)の違いは 0.18 0.2%で、時間変動の影響はほぼ消失していた。そこで、時間コストが安い、1日毎の非定常解析を以下の条件で行う。

【計算条件】
Therm3D(黒田英夫著Visual Basicによる3次元熱伝導解析プログラム(2003)CQ出版社)の解析部分を使用した六面体20節点アイソパラメトリック要素による非定常計算。
2004年6月1日~2011年5月31日までの2556日分の平均外気温を気象庁のWebからスクレイピングし、非定常解析の計算打ち切り時間を1日に設定し、2556回繰り返すこととする。

床面積 8m×8m=64㎡(壁芯8.15m×8.15m=66.4225㎡)の1/4モデル
水平方向の分割(X軸とY軸) 0m,2m,3m,3.5m,3.9m,4m,4,15m,4,25m,4.7m,5.7m,8.7m
鉛直方向の分割(Z軸) 0m,6m,8m,9m,9.5m,9.75m,9.8m,9.85m,9.9m,9.95m,10m(外壁1mがある場合+1mの11m)
外壁 高さ 床から1m
外壁 幅 0.15m
コンクリート厚さ0.15mのフラットスラブ
外断熱材厚さ 基礎立ち上がり100mm
地盤の深さ 10m(スラブ下9.85m)
室内温度 25℃で一定
外気温変動 北海道北見 2004.6~2011.5の7年間(2556日)
[材料物性値 熱伝導率(w/(m・K))密度(kg/㎥)比熱(J/(kg・K))]
コンクリート     1.6w/(m・K) 2300(kg/㎥) 880(J/(kg・K))
土           1 w/ (m・K) 1500(kg/㎥) 2300(J/(kg・K))
基礎立ち上がり断熱材 0.034w/ (m・K) 27(kg/㎥) 1450(J/(kg・K))
室内側境界条件 熱伝達境界 熱伝達率は9w/(㎡・K)で一定
外気側境界条件 熱伝達境界 熱伝達率は23w/(㎡・K)で一定
モデル切断面の境界条件① 底面は温度固定境界 6.85℃(7年間の平均気温)
モデル切断面の境界条件② 底面以外は断熱境界
初期値 2004年5月31日24時の外気温14.2℃(室内温度も14.2℃)で計算した定常解析の値

今回のシミュレーションの計算打ち切り時間は1sではなく1d=86400sで行っているため、熱伝導率(w/(m・K))と熱伝達率(w/(㎡・K))を下のように換算している。(Wの定義W=J/sから、86400J/86400s=86400J/dとなる為、s→dに変換すると86400倍の数字になる。)

コンクリート     1.6J/(s・m・K)→138240J/(d・m・K)
土           1 J/(s・m・K)→86400J/(d・m・K)
基礎立ち上がり断熱材 0.034 J/(s・m・K)→2937.6J/(d・m・K)
室内側熱伝達率 9 J/(s・㎡・K)→777600J/(d・㎡・K)
外気側熱伝達率 23 J/(s・㎡・K) →1987200J/(d・㎡・K)

この換算を忘れると7年(2556日)分のシミュレーションをしたつもりが、外気温変動の激しい2556秒(約43分)のシミュレーションになる。「有限要素法はじめの一歩(講談社)」という本には、解析の間違いの殆どが単位の間違いと書いてあったが、自身で解析を行うとよく分かる。容積比熱はkJ/(㎥・K)で表示される事が多いため、Jで入力すべき値をkJの値で入力してしまったり、時間の換算を忘れたりする。そして、間違い同士がある程度相殺しあって、それらしい値が出力された事もある。論文でも単位の間違いを見た事があるので入力ミス、単位間違いには気を付けたい。。。

【結果】
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外気温と上の図の丸印(隅角部、壁から0.1m内側、壁から0.5m内側、壁から1m内側、壁から2m内側、壁から4m内側(中央))を付けた節点の7年分の温度変動をプロットする。
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上は基礎立ち上がり外断熱材100mmスラブ下断熱材0mmの場合の床温度だがコンクリート壁から0.5m内側で温度変化が緩やかになり、2m内側でほぼ一定となる。
簡易計算式では、外周部と中央部に分けて熱損失を計算するようになっているが、分けて計算することは3次元非定常計算の結果とも整合性がある。流体から固体壁への熱の移動は熱伝達と呼ばれ、熱伝達量=熱伝達係数×接触面積×温度差という単純な式で表現される。温度差がなければ値がゼロになり熱流が生じない。熱移動の推進力は温度差であるが、外周部と中央部を比較すると、スラブ下に断熱材が無い場合は、室内温度と表面温度の差が大きい外周部の熱損失が中央部より大きくなる。岩前式でどのような値になるのか計算してみると、外周部の単位温度差当たりの熱損失(W/K)は中央部の9倍程であった。私の基礎断熱モデルの1年目の床からの熱損失は壁から内側に1m部分(28㎡)で床全体(64㎡)の熱損失の77.5 70.8%を占めた。

【単位温度差あたりの熱損失:簡易計算式との比較】
床周りからの熱損失を求める岩前式では冬季間(12月-3月)の流出熱流積算値を同期間の外気温と室内温度の温度差の積算値で割り返して損失熱流と表現していたが、北見の11月~3月でも同様に、熱伝達率×床面積×温度差×24hの積算値を(室内温度-外気温)×24hの積算値で除してみた。7年分の計算結果は以下のような値になる。
※熱損失を計算するプログラムで、節点データの数値の打ち間違いが一か所と配列の数字を一か所間違えました。すみません。以下のデータ修正しております。
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1年目は初期値の影響があるので、2年目から7年目の値の平均値を計算すると22.6 23.3(W/K)である。この値を簡易計算式と比較すると、2次元有限要素法による定常計算の温度分布をもとに求めた赤坂式で計算した値が23.7(W/K)、2次元有限差分法による非定常計算から求めた岩前式で計算した値が27.2(W/K)であった。3次元の非定常計算だったが、定常計算の赤坂式と近い値となった。しかしながら、北見の冬季間をどこからどこまでの期間にするかで値も変わる。

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上はシミュレーション1年目の月毎の床からの熱損失と同期間の内外温度差積算値で割り返した値だが、床からの熱損失は地盤の熱容量の大きさから変動が緩やかになり、伝熱過程の時間遅れから床からの熱損失が最大となるのが3月である。そして、内外温度差が拡大した方が、単位温度差当たりの熱損失の値が低くなる。したがって、冬季間の定義次第で断熱性能の値が変わってしまう。冬季間を長く定義すれば岩前式の値に近づく。

【まとめ】
3次元有限要素法非定常解析で得られた値は簡易計算式の値に近く、簡易計算式は基礎外断熱スラブ下断熱材無しの場合は使える式だと言えそうだ。。。(逆に言うと数値計算でやっていることは同じなのでプログラムと入力のミスか無かったということが確認できた大きなミスが無い可能性が高いということか。。。)しかしながら、簡易計算式には地盤深さや地盤の熱伝導率など入力条件があるので、そこから外れると計算できなくなってしまう。その点、一度数値計算プログラムを組んでモデルを作ってしまえば値を変えるだけで制約なく様々なシミュレーションが可能であり修正も出来るのでプログラムによる計算は便利である。

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